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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)1275号 判決

原告 破産者三幸建設株式会社破産管財人 吉田朝彦

被告 株式会社 幸福相互銀行

右訴訟代理人弁護士 毛利与一

同 島田信治

同 高畠光典

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一、被告は原告に対し金六八九万九、六九六円およびこれに対する昭和四三年七月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、訴外三幸建設株式会社(以下、「破産会社」という)は昭和四三年三月一八日大阪地方裁判所堺支部において破産宣告を受け、原告はその管財人に選任された。

二、(一)破産会社は破産宣告前、被告との間で銀行取引をなし、被告に対し預金債権等の債権を有していたが被告も破産会社に対し貸付債権、手形買戻請求権等の債権を有していた。

(二)破産会社は、昭和四三年五月三一日当時、被告に対し次のとおり合計金三、〇二六万〇、一八八円の債権を有していた。

(三)被告は、昭和四三年五月三一日現在原告に対して破産会社に対し総額金三、〇二六万〇、一八八円の手形貸付等債権を有するとしてその債権を自働債権として前項の破産会社の債権と相殺する旨の意思表示をした。

三、しかしながら被告が相殺に供した前項の自働債権のうち金二、三三六万〇、四九二円の債権の存することは争わないが、その余の金六八九万九、六九六円(次の(一)金八九万九、六九六円および(二)金六〇〇万円の合計額)については、次の理由により、その相殺は無効である。

(債権の種類)

(弁済期)

(元本)

(利息)

(1)別段預金

昭和四三年三月二日

金九万一、〇〇〇円

(2)定期預金

同 年同月三〇日

金一、一一六万一、六七八円

金一二万九、五九七円

(3) 同

同 年同月同日

金一、四四三万四一八五円

金一六万七、五九四円

(4) 同

同 年四月五日

金二〇万一、七〇〇円

金二、二八〇円

(5) 同

同 年五月一九日

金三〇二万五、五〇〇円

金二万八、八〇三円

(6) 同

同 年五月三一日

金五〇万〇、〇〇〇円

金九、三〇八円

(7) 同

同 年六月三〇日

金五〇万〇、〇〇〇円

金八、五四三円

すなわち、

(一)1.被告の右自働債権中には手形貸付等債権に対する破産宣告の翌日である昭和四三年三月一九日から右相殺の意思表示をした同年五月三一日までの期間の日歩五銭の割合による遅延利息債権合計金八九万九、六九六円が含まれているところ右遅延利息の存することは原告も認めて争わない。

2.しかし右遅延利息債権は破産宣告後の利息債権であって破産法第四六条第一号にいう劣後債権に当たる。そして破産法は、破産者に対し債権債務の関係にある者を保護する立場から、原則として、破産債権と破産者の有する債権との相殺を認めているけれども、劣後債権についてはこれを自働債権として破産者の有する債権と相殺することを認めていないものというべきである。けだし劣後債権は一般の破産債権が弁済された後はじめて弁済を受け得るものであるから、かかる劣後債権を自働債権として破産者の有する債権とする相殺を認めるとすると、かかる劣後債権を通常の破産債権と同列に取り扱ったことになり、劣後債権を認めている破産法の趣旨に反するからである。したがって劣後債権である右遅延利息債権を自働債権として被告がした相殺はこの限度で無効である。

(二)1.被告の前記自働債権中には破産会社に対する左記二通の約束手形金債権合計金六〇〇万円が含まれている。

(A)金額 金四〇〇万円

満期 昭和四三年二月一六日

振出日 昭和四二年九月二九日

振出人 三幸建設株式会社(破産会社)

振出地 高松市

支払地 大阪市

支払場所 株式会社幸福相互銀行

阿倍野支店

受取人 東海総業株式会社

(B)金額 金二〇〇万円

満期 昭和四三年三月二二日

振出日 昭和四二年一一月六日

支払地 堺市

支払場所 株式会社住友銀行堺支店

その余の記載前(A)と同様

2.前項の各手形(以下「本件各手形」という)は、破産会社が訴外東海総業株式会社(以下「訴外東海総業」という)に振り出し交付したものであるところ、被告は訴外東海総業から本件各手形の取立委任のため裏書譲渡を受けたにとどまる。したがって、被告自身は本件各手形に基き破産会社に対し本件各手形金債権を有しないからこれをもってなした相殺は無効である。

3.かりに被告が訴外東海総業から本件各手形の裏書譲渡を受けたとしても、

(1)被告は、破産会社が後記(2)記載の経緯で昭和四三年一月下旬に支払の停止をしたことを知って(または破産宣告後に)本件各手形を訴外東海総業から裏書譲渡を受けたものである。

(2)破産会社が昭和四三年一月下旬支払の停止をした経緯は次のとおりである。

Ⅰ破産会社は訴外青木産業株式会社から京都大崎団地の宅地造成工事を請負っていたが昭和四二年秋頃京都府および市当局の許可を受けられなかったため同訴外会社から右請負契約を破棄され、このため甚しい資金難に陥った。

Ⅱこのため破産会社は、昭和四三年一月上旬から資金捻出に努めたが同年一月三一日被告に弁済すべき金六〇〇万円の債務を弁済することができず、被告に対しその履行の猶予を求めた。

Ⅲ以来破産会社は、極度の資金難に陥り、その経営は危たいに頻し昭和四三年一月三一日以降に履行期の到来した大口債務についての弁済をすることができなくなり、ことにその頃(昭和四三年一月三一日)以降はいわゆる不渡処分こそ発表されていないが支払停止の状態にあった。

(3)したがって、被告のなした右相殺は破産会社の支払停止を知って(または破産宣告後に)取得した本件各手形債権を自働債権とするものであって、その限度で破産法第一〇四条第三号または同条第四号に違反するものとして無効である。

四(一)したがって被告が破産会社に対して自働債権として相殺に供することができる手形貸付等債権は金二、三三六万〇、四九二円(すなわち前記二(三)記載の金三〇二六万〇、一八八円から前項の金六八九万九、六九六円を控除した金額)である。

(二)そこで被告が適法に有する右自働債権と前記二の(二)記載の預金債権とを相殺してみると民法第五一二条、第四九一条、第四八九条により、まず前記二の(二)記載の(2)ないし(7)の利息債権の合計金三四万六、一二五円が消滅し、元本債権については(1)の金九万一、〇〇〇円が消滅し、この段階で被告の残存自働債権は金二、二九二万三、三六七円となるが、これを前記二の(二)記載の(2)および(3)の元本債権の額に応じて按分すると(2)の元本債権は金九九九万六、二七三円が消滅し、(3)の元本債権は金一、二九二万七、〇九三円が消滅する。したがって(2)の元本債権は金一一六万五、四〇五円が、(3)の元本債権は金一五〇万七、〇九二円がそれぞれ残存することになる。

五、よって原告は被告に対し前記二の(二)記載の(2)の定期預金債権のうち金一一六万五、四〇五円、(3)の定期預金債権のうち金一五〇万七、〇九二円および(4)ないし(7)の定期預金債権の合計額金六八九万九、六九六円(右合計額は金六八九万九、六九七円となるが、この差は按分充当の際の誤差であり放棄する)およびこれに対する、前記各定期預金債権のうち最終の弁済期の翌日である昭和四三年七月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。(請求原因に対する認否および被告の主張)

(認否)

一、請求原因一の事実は認める。

二、同二の事実は認める(ただし(二)の(5)の定期預金の弁済期は昭和四三年五月一〇日である)。

三、同三の事実のうち

(一)の1の事実は認め、2は争う。

(二)の1の事実は認める。2の事実のうち本件各手形がいずれも破産会社から訴外東海総業宛に振り出し交付されたものであることは認め、その余は否認する。3の(1)の事実は否認する。(2)の事実のうちⅠの事実は不知、Ⅱの事実のうち破産会社が昭和四三年一月三一日被告に対し一部の債務の履行の猶予を求めたとの点は否認し、その余は不知、Ⅲの事実は否認する。(3)の事実は争う。

四、同四の事実はすべて否認する。

五、同五の事実は争う。

(被告の主張)

一、原告は遅延利息債権について劣後債権を一般債権と同列に扱う結果になるのは不当であると主張するが、ある債権が或いは担保権によって担保されていたり(別除権)或いは反対債権と釣り合っている関係にあったりする(相殺権)ということは、それぞれの債権の特殊性ないしは固有の地位ともいうべく、その限度でその債権は他より優先的地位にあるというべきであって、このような特殊性はそれが破産宣告後の債権であるかどうかということはまた別個の問題である。このような優先的地位にある債権をその地位から無理に引きおろし何の特殊性も優先性もない債権と同列に置き、そのうえでこれを劣後債権であるときめつけるいうのは差異あるものをその差異に従って正当に評価する所以ではなく、原告の右主張は失当である。

二、本件各手形はいずれも被告が訴外東海総業に対しいわゆる手形貸付の方法により融資した際、その担保(いわゆる譲渡担保)として同訴外会社から裏書譲渡をうけたものであり、原告主張のように単なる取立委任をうけて預ったものではない。

三(一)破産会社が支払の停止をしたのは昭和四三年二月一五日頃であり原告主張のように昭和四三年一月下旬ではない。すなわち破産会社は昭和四三年二月一三日までは一般の支払も滞りなく決済されているのであり同月一五日に不渡を出していわゆる警戒報告の処分(なお取引拒絶処分は同月一七日)をうけるに及んではじめて支払を停止するに至ったものである。

(二)、被告が本件各手形のうち請求原因三(二)の1記載の(A)表示の手形を取得したのは破産会社の支払停止よりも遙かに以前である昭和四二年一〇月二〇日であり、同(B)表示の手形を取得したのも同様同年一一月七日である。

(抗弁)

かりに原告が請求原因三において主張するとおり無効だとしても、

一、被告は破産会社の請求原因二の(二)記載の各預金債権に対し、被告の破産会社に対する全債権(被告の前記金六八九万九、六九六円の自働債権をも含む)の共通担保として破産会社との間で次のとおり質権の設定をうけた。

(区分) (質権設定日)

(2)の預金 昭和四二年六月三〇日

(3)の預金 同年同月同日

(4)の預金 同年一〇月五日

(5)の預金 同年一一月一〇日

(6)の預金 同年五月三一日

(7)の預金 同年六月三〇日

二、破産会社は被告に対し前項の質権設定について昭和四三年二月六日付の確定日付をもって通知をなし、これにより被告は民法第三六四条第一項所定の対抗要件を具備した。

(抗弁に対する認否)

一、抗弁一の事実は否認する。

二、同二の事実は認める。

(再抗弁)

かりに被告が主張するような質権の設定がありかつその対抗要件を具備したとしても、原告は本訴において右対抗要件具備行為を破産法第七四条第一項により否認する。すなわち、

一、破産会社は支払停止(昭和四三年一月下旬)後かつ最終の質権設定日(昭和四二年一一月一〇日)から一五日を経過した後の昭和四三年二月六日に前記対抗要件を具備したものであり、被告は右対抗要件具備行為の際、破産会社の支払停止の事実を知っていた。

二、以上のとおり被告主張の質権設定についての対抗要件具備行為は原告に対する関係では効力を生ずるに由なく、したがって被告の抗弁は失当である。

(再抗弁に対する認否)

一、再抗弁一の事実は否認する。

二、同二の事実は争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、破産会社、被告間の銀行取引および被告による相殺等

請求原因一、二(ただし(二)の(5)の定期預金債権の弁済期の点は除く)の事実は当事者間に争いがなく、請求原因二の(二)記載の(5)の定期預金債権の弁済期については〈証拠〉によれば昭和四三年五月一〇日であることが認められる。

二、手形金債権を自働債権としてなした相殺の効力

被告が請求原因二の(三)記載のとおり昭和四三年五月三一日原告に対してなした相殺の自働債権中には訴外破産会社が訴外東海総業に振り出し交付した請求原因三の(二)1記載の本件各手形金債権(合計金六〇〇万円)が含まれていることは当事者間に争いがない。

(一)そこで本件各手形は被告が訴外東海総業から取立委任を受けたものである旨の原告の主張(請求原因三の(二)2)について判断する。

1.〈証拠〉によれば本件各手形の表右肩(支払期日の上部)に「幸福本店代三九三八六」および「幸福本店代三八四二九」の表示があることが認められる。

原告は、被告(本店)が顧客から取立委任をうけた手形に右「代」の文字を附していた旨主張し、証人石田孝一(昭和四二年当時被告阿倍野支店支店長)はこれにそう証言をしているが、証人谷口豊次朗(昭和四二年当時被告本店営業部貸付担当の部長代理)は昭和四二年頃被告本店では「代」という表示を担保手形の表示に使っていたかも知れない、商手の場合に、担手という表示を使っていたこともあった。」「割引手形については「商手」と統一していたが取立委任の場合は「担手」を使ったり「代」を使ったりして統一されていなかった、取立委任の場合には手形裏面に必ず取立委任のゴム印を押していた旨証言し、また証人品川登美男の証言はこの点についてはあいまいであって、これらの各証言と後記〈証拠〉を総合すると結局、本件各手形に右「代」なる表示の存することのみによっては被告において本件各手形を訴外東海総業から取立の委任を受けたものであるとの原告の主張を認めるに十分な心証を得ることができない。

2.のみならず〈証拠〉を綜合すると本件各手形は被告の主張二記載のとおり被告が訴外東海総業に対し手形貸付の方法により融資した際、その譲渡担保として同訴外会社から裏書譲渡をうけたものであることが認められる。もっとも〈証拠〉によれば被告(本店)における同訴外会社の当座勘定元帳の昭和四三年六月一日欄の記載には被告(阿倍野支店)から昭和四三年六月一日付で同訴外会社の被告(本店)の当座に金六〇〇万円が振り込まれている旨の記載があることが認められる。しかし前掲各〈証拠〉に照らして考えると、この事実から直ちに被告(阿倍野支店)が本件各手形金債権を取り立てて、もって被告(本店)の同訴外会社当座勘定に振り込んだとの事実まで推認することは困難である。

3.〈証拠〉によれば、被告が昭和四三年二月一六日付で作成した被告の訴外破産会社に対する催告状および被告が訴外破産会社に対する債権を自働債権とし訴外破産会社の被告に対する債権(預金債権)を受働債権として相殺した旨を通知する昭和四三年三月一九日付および同月二九日付文書にはいずれも本件各手形金債権の記載がないこと、そして昭和四三年五月三一日付の前同様の相殺通知書に本件各手形金債権が記載されていることが認められるが、〈証拠〉によれば昭和四三年三月二九日当時は被告の破産会社に対する割引手形のうち最終期日の到来していないものがあったこと、最終的に債権が確定したのは昭和四三年五月末であることが認められるから前記昭和四三年五月三一日付相殺通知書以前の相殺通知書ないし催告状に本件各手形金債権の記載がないとの事実から本件各手形が取立委任を受けたものである旨の原告の主張事実を推認することはできなく、ほかには原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

4.したがって、被告は破産会社に対し訴外東海総業からの裏書譲渡により本件各手形金債権を有していたものである。

(二)そこで、被告が破産会社の支払停止(昭和四三年一月下旬)後そのことを知って(または破産宣告後)本件各手形を訴外東海総業から裏書譲渡をうけた旨の原告の予備的主張(請求原因三(二)の3)について判断する。

〈証拠〉によれば被告は、被告の主張三の(二)記載のとおり昭和四二年一〇月二〇日および同年一一月七日訴外東海総業から本件各手形を取得したことが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば被告が本件各手形を取得したのは原告主張の破産会社の支払停止時期(もちろん、破産宣告時期も当然そうである)よりも遙かに前であることが明らかであるから、原告の前記主張(請求原因三(二)の3)はその余の点について判断を進めるまでもなく失当である。

三、破産宣告後の利息債権を自働債権としてなした相殺の効力

(一)被告が請求原因二の(三)記載のとおり昭和四三年五月三一日原告に対してなした相殺の自働債権中には請求原因三の(一)1記載の破産宣告後の利息債権金八九万九、六九六円が含まれていることは当事者間に争いがない。

そこで右破産宣告後の利息債権を自働債権として被告がなした相殺はこの限度で無効である旨の原告の主張(請求原因三の(一)2)について検討する。

(二)思うに破産法が破産手続の迅速簡明をはかるため自働債権、受働債権ともに破産宣告の時に期限未到来であっても相殺しうる旨を規定(同法第九九条)する一方、よって生ずる破産債権者相互間の不公平を調整し債権者間の公平を確保している(同法第一〇〇条以下、とくに第一〇二条参照)趣旨に徴すれば、破産法のもとで破産者に対する自働債権が破産宣告の時に弁済期が到来したものとみなされる(同法第一七条)のは、単に自働債権をもって相殺をなしうるに至るというだけではなく(これだけの意味なら民法第一三七条第一号で足る)約定利息も破産宣告の時をもって打ち切られその後の利息債権は、質権と抵当権等の被担保債権として別除権等の保護を受けないかぎり、劣後債権として残るに留まり相殺の数額には加算することができないという趣旨であると解するのが相当である。そうだとすると破産宣告後の遅延損害金(利息)についてもこれと別異に解すべき理由はないから被告が破産宣告後の遅延利息債権金八九万九、六九六円を自働債権としてなした相殺は右別除権等の保護を受けないかぎりこの限度で無効となるというべきであり、この意味において、原告の右主張は理由がある。

(三)そうだとすると被告の有する自働債権は請求原因二の(三)記載の金三、〇二六万〇、一八八円から前項の金八九万九、六九六円を控除した金二、九三六万〇、四九二円である。そこで右自働債権と請求原因二の(二)記載の預金債権とを相殺すると民法第五一二条、第四九一条、第四八九条により請求原因二の(二)記載の(2)ないし(7)の利息債権(合計金三四万六、一二五円)、(1)ないし(5)の元本債権(合計金二、八九一万四、〇六三円)および(6)の元本債権のうち金一〇万〇、三〇四円が消滅する。したがって(6)の元本債権のうち金三九万九、六九六円および(7)の定期預金債権(金五〇万円)が残存するから、原告の本訴請求は被告の抗弁が認められないかぎり、右(6)(の一部)および(7)の定期預金債権合計金八九万九、六九六円の支払を求める限度において理由がある。

四、預金債権に対する質権の設定と対抗要件の具備(抗弁)

〈証拠〉を綜合すると破産会社は被告に対し、被告からすでに負担しまたは将来負担することあるべき一切の債務の共通担保として、前項の(6)の定期預金債権については昭和四二年五月三一日、(7)の定期預金債権については同年六月三〇日その各預金証書を交付して質権を設定したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして破産会社が被告に対し右質権の設定について昭和四三年二月六日確定日付ある証書によって通知をなし、これにより被告が民法第三六四条第一項所定の対抗要件を具備したことは当事者間に争いがないから被告は右定期預金債権に対し被告と破産会社との取引により生ずる債権(当然係争の本件遅延利息債権をも含む)を被担保債権とする質権をもって原告に対抗することができることになる。それゆえ、原告の再抗弁が認められないかぎり、本件遅延利息債権も、右定期預金債権について別除権の保護を受けることになり、破産法第四六条第一号にいう劣後債権に該当するということができず、当然自働債権として右定期預金債権に対し相殺に供することができるということになる。その意味において被告の抗弁は理由がある。

五、質権設定の対抗要件具備行為に対する否認(再抗弁)

原告は破産会社が支払停止をしたのは被告が前記質権の対抗要件を具備した昭和四三年二月六日より前の同年一月下旬である旨主張し右支払停止の経緯について請求原因三(二)3の(2)記載の事実を主張するが右主張事実については本件全証拠によるもこれを認めることができない。すなわち〈証拠〉を綜合すると破産会社は昭和四三年二月中旬不渡手形を出して取引拒絶処分をうけたこと、破産会社は同年二月一日以降同月九月頃までは支払を継続していたことが認められる。証人向永保の証言によっては未だ破産会社が昭和四三年一月下旬(遅くとも同年二月六日以前)にすでに支払停止をしたとの事実を証するに足りなく〈証拠〉によれば被告の破産会社に対する催告状および被告との取引についての破産会社の連帯保証人たる訴外ブルドーザー工事株式会社宛の受領証にはいずれも同年二月一日以降の遅延損害金を請求ないし受領した旨の記載があるがこの事実によっても原告の右主張事実を推認することは困難である。ほかには原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

したがって原告の再抗弁はその余の点についてさらに判断を進めるまでもなくすでにこの点において理由がない。

五、結論

よって原告の被告に対する預金債権に基づく本訴請求は、結局、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 喜田芳文 松村雅司)

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